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夕食を宿で取っていた時だった。
急にクーが立ち上がる。
勢いで椅子がガタンと音をたてて倒れた。
「あれ?」
本人が不思議そうにしているのもおかしな話だ。
「座るのちょっとまった!」
同席していたユイがあわててクーの椅子を直す。
見えないクーには手助けが必要だが、運悪くスフィアにかかりきりだった。
ぐずる子供の扱いは面倒くさい。
こう二人も手間がかかるようだとは思いもよらなかった。
なんとかスフィアの食事を終わらせ、自分の分を食べようとしたときには料理が冷めてしまっていた。
「お兄さん、いろいろ大変ねぇ」
「もう少し素直になってくれればいいんだが…」
ため息がついて出る。
何かをどこかに忘れてきたような感覚がまとわりつく。
「何かお困りのようですね」
「そう見えるのか?」
「肝心なものを見失ったような顔をしてるわよ」
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「反応はいいけど、受身だな。反撃型なのか」
その気はないと思っていた。
しかし、さんざん攻撃を受け流した相手の言葉だ、そういう戦い方が染み付いたのだろう。
「勢いはいいから、そのまま一瞬で近づいて一撃が出せればなぁ…こんな風に」
言い終わらないうちに一瞬で間合いを詰められ、軽くわき腹に拳を当てられる。
「今のは寸止めしたから何も無いが、良くて気絶、悪くて内臓にダメージ与えて吹っ飛ばせる」
これが実戦なら命は無いということか。
つくづく細かいところを的確に突いてくる。
「あともう一つ、斬るだけじゃなくて突くのも覚えろ」
「突くのは今までもやっている」
「あー…気づいてないと思うが、うまく飛び込んできても斬りつけてくるから避けるスキが出てくるんだ」
言われてみれば、軽く動いて確認すると殆どが斬る動きだった。
突く動きがまったくと言っていいほど無かった。
そんなところまで見ていたのか…
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「少しくらいなら相手してやってもいいぞ」
どこにも吐き出せない思いをそのまま攻撃に乗せて。
しかし洒落にならないスピードで返される。
何度繰り返しただろうか?
半分以上赤くなったセカイで二人っきりでの一方的な殺し合い。
何度返されても収まりがつかなくて、また感情のまま襲い掛かって。
「癇癪を起こした子供…いや、認められたいだけの子供って感じだ」
今度は短剣を持った手をつかまれ、勢い良く叩きつけられる。
予想以上の衝撃に息ができない。
「ぐっ……げほっ…っ!」
「気が済んだか?」
呼吸が落ち着くと、荒れていた気持ちが無くなっていた。
溜まっていたものが消えてしまったようだった。
「お前の攻撃、思ったよりパターンが単純で避けやすかったぞ」
「…そっちこそ、勝てる気がしない」
強い、間違いなく強い。
フェイト相手に太刀打ちできないとは思わなかった。
「ただの経験の差だ」
起こそうと手を差し伸べてくる相手。
その手を取って起き上がるフリをする。
油断しているところを起き上がったときの勢いだけで刺すつもりだった。
ふわりと足が浮く感覚。
「ま、俺の場合は力の差も間違いなくあるから気をつけろよ」
片腕で空中に投げ出されたと気がついたときには、もう遅い。
体勢が立て直せず、また容赦なく叩きつけられた。
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ここ数日、リュートに呼ばれない。
何かあったのかと、隙を見て浮き上がった。
「えーっと、替えの包帯はどこかな?」
見慣れない小さな子供。
あちらこちらに荷物が散らばっている。
「あ、リュートが持ってるかも。ちょっと待ってて」
子供はぱたぱたと部屋を出て行った。
いつの間にこんな子供を連れていたのだろう。
全然、自分の記憶に無かった。
苦手だ、小さい子供は…すぐに泣くから。
「あったあったー、やっぱりリュートが持ってたの」
包帯を二個ほど持って戻ってきた。
それとなく、言葉を選んで、話しかける。
「…リュートは?」
「んとね、おとなしく寝てた。今日と明日は動けないかもねーって」
二、三日動けない、ということはケガをしたという事か。
それなら呼ばれない理由が納得できる。
「ちょっと聞こえてる?包帯巻くから目つぶって!」
癇癪を起こされそうになって、しぶしぶ目を閉じる。
次に呼ばれたら聞かなければ。
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半分以上紅くなった自分のセカイ。
普段ここは自分しか入ってこれない場所。
そんな場所に足音が聞こえる。
「また来たの?フェイト」
「ああ」
敵意識があると入ることすらできないこの空間。
そこをフェイトはすんなり入ってくる。
リュートですら入ってこれないのに…
「…半分以上紅くなった」
「前よりペースが落ちてるけど範囲が広がっているな」
その所為か知らないけれど、唯一の話し相手。
「リュート、最近自分のこと見てるのかな…」
「どうかしたのか?」
「遠い、リュートが遠い」
一つ不安があった。
自分のセカイにはリュートしかいない。
置いていかれたりしたら一人になってしまう。
「一人はイヤだ…」