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声がした直後、いきなり腕がぐっと頭の上まで持ち上がる。
首だけ扉の方を向けると、息せき切ったユイがいた。
「あーもーびっくりした」
もやもやした気分がおさまらない。
その上腕に何か細い糸が絡まっているが、引っ張っても切れる気配がない。
「これはお前の仕業か」
「条件反射でつい…切れないからあまり暴れないでもらうと嬉しい」
余計なことを。
だが、次の一言でうかつだった事に気がつく。
「すーちゃんに見られたらどうするのよ」
「…しまった」
「判ったならよろしい」
気付くと同時にするりと絡んでいた糸が外れる。
多少、吊られた時についた赤い線のような跡が残ったが、目立つような跡ではない。
「それだけじゃないわ…もっと別な方法があるでしょ」
「俺のやり方に口出しするな」
このおせっかいは…
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珍しく、宿に戻ってきたのが深夜だった。
それでも、汚れを持ち込まないように清めてから戻る。
窓から忍び込むと、リュートが荷物からうす茶色の液が入ったガラスの小瓶を取り出していた。
「…悪い、今日はもう眠らせてくれ」
ばつが悪そうな顔をして、ふた口ほど小瓶の液体を飲む。
そういえば一日中調子が悪そうな気配だった。
「いい子だから、一人でできるな?」
自分の頭を手荒に撫でて、寝台に突っ伏す。
ほんの少しアルコールの匂いがした。
夜行の服は密着するように作られていて、一人で脱ぐのは大変だ。
紐で締めている場所を一通り緩めないと脱げない。
悪戦苦闘すること暫く、やっとすべての紐を緩めることが出来た。
「ふぅ…」
窮屈な服を脱いで一息つくと、静かな寝息が聞こえる。
リュートが自分より早く寝ることはめったに無い。
興味本位で近づいたときだった。
「ううっ…ぁ」
リュートが急に苦しそうな表情になり、呻く。
一瞬、起きたのかと思ったがそうではなかった。
眠ったままだ。
「う…あ……」
何かをこらえるように頭を抱え、うなされている。
たまらず、起こそうと手を伸ばすと痛いほど強い力で手首を掴まれた。
「リュート?!」
「…師匠……も、…ムリ……ごめ…な、さ……」
はっきりと聞こえた。
背筋が凍る。
「…や、だ……われ……」
「っ、リュート!」
肩を揺さぶってムリヤリ起こす。
「あの場所」の記憶は自分も辛い。
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「食を調べるのも任務である。とは言ったものよねぇ」
「一口目は勇気が必要な物もあるがな」
たまたま夕食はパンドラと二人で屋台となった。
調べ物と報告があったので、リュートたち三人を置いて先行していた。
フェイトは見た目より小食なのであまり外食しないので、こういうときは二人だ。
「植物系は分解できないものあったりすると後がタイヘンなのよねぇ」
「月唯はほぼ分解できるから関係ないであろう」
「いやだって二人で感想言いながら食べた方がおいしいでしょ~」
体質的な不食のものもあるため、気をつけながらバランスよく選んでいく。
今日は魚を揚げたものを野菜と一緒に煮込んだものになった。
いただきます、と礼儀よく挨拶をしていただく。
「見た目がトマトなのに味がニンジンって」
「土臭くなくておいしいではないか、これは緑色のビーツか?」
「ほんとだ、キウイかと思った」
「うむ、ちょっと酸味が欲しい味だな」
「甘酢仕立てが恋しい味だねぇ、ほんと」
まぁ合わない事はないそこそこの味だった。
なぜか知らないけど酸っぱい食べ物に会わないため、ちょっと酸味が恋しい。
「果物もすっぱいの無いよねぇ」
「うむ見かけないの、鼻につーんとくる辛甘い果物にはさすがにびっくりしたが」
「リコリスみたいに甘苦いならガマンできるんだけど…さすがに辛甘いのは」
デザートは二人ともちょっとほろ苦いジュース。
あまりにも味が似ていたので勝手に「完熟ゴーヤジュース」と呼んでいる。
実際の実はスイカの仲間のようだったが…
「なんだ、こんなところにいたのか」
「あ、リュート。今到着?」
「ああ、遅いから食事摂ってから宿に向かおうと思っていた所だ」
人ごみでも目立つ髪色はやはり目印になるようだ。
到着したばかりの一行にあっさり見つかった。